オンボロのタクシーが減速すると、多くの子供たちがクルマと並走し始める。 子供達はなんとかクルマに追いつこうと必死に走る。その人数はどんどん増えていく。
タクシーが止まる。ドアを開けようとすると、運転手が「ドアが壊れれいる」と言う。 確かに、あるべきノブが無い。 すると、先頭を走っていた子供が、ドアを外側から開ける。 「ありがとう」と自然に声が出る。
・・・そこまでは美しい地方への旅の光景であった。 次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは、 子供達の可愛い手の平である。 ドアを開けてくれた少年だけでは無い。 並走した多くの子供達が、紅葉のような小さな手の平を開いて差し出すのである。チップの要求であった。
一人だけなら、ポケットに手を入れて、小銭を渡すところだが、これだけ多いと小銭が足りない。 そこで、已む無く、無視して歩き始める。 子供達はあきらめずに付いて来る。
町の通りを歩きはじめると、それぞれの家々の戸口に男達が立っている。 何もしないで、ただ呆然と立っているように見える。表情も無く言葉も無い。
朝、いつものように起きて いつものよう顔を洗い いつものように朝食を取り いつものように会社に出かけようとする。 そして、戸口に立ったら、自分には、もう通勤する会社が存在しないことに気が付く・・・。 そして、そのまま戸口に立ち尽くす。
戸口に立つ男達を見た時、このような想像が頭の中を過ぎる。
肝心な時に役に立たない男達とは違い、女達と子供達は日々の糧を求めて、出来るだけの努力をする。
子供達の追跡を逃れた後は、女達が怪しげな骨董品、果物、食器、衣服、絵葉書など様々な商品を持って売りに来る。
しかし、これも無視して、目指す訪問先を探し当てる。
日本は不景気だと騒げば、役人は喜んで「景気浮揚策」なるものを考え、予算を請求する。 しかし、世界には経済が破綻している国も多い。こうした国では対策を打とうにも金がどこにもない。 それでも生きねばならない。 どの国でも子供達は学校に行かずに働いている。 無邪気にタクシーを追いかけて遊んでいるわけではないのである。
子供達の手の平の白さが、目に焼きついている。
by yuyuu-yano
| 2008-09-11 13:13
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by 矢野友遊 カテゴリ
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